はじめに:価格は「原価+α」だけでは測れない
前回の「屏風の適正価格」の記事では、用途や品質、耐用年数、そしてブランド力など多くの要素が絡み合い、「適正価格」という答えが一筋縄ではいかないことをお伝えしました。今回の記事では、さらに踏み込んで、屏風価格を形成する背後にある価値観やサービス形態の違いについて考えてみましょう。
「価格=原価+人件費+利益」という単純な式だけでなく、その商品が完成するまでに込められた職人の想い、投資された技術・時間、そしてお客様が求める価値観――こうした無形の要素が最終価格にどのように影響するのか、探っていきます。
市場価格と「バブル期」の教訓
屏風にも、ある程度の市場価格(相場)があります。似た仕様・素材・品質の製品が複数社から供給されるなら、当然ながら激しい価格競争が起きます。特に高度成長期やバブル期には、需要拡大に伴い大量生産・大量消費の時代が訪れ、コスト削減や効率化が最優先されることもありました。
当社(泰山堂)も、その波に巻き込まれかけたことがあります。
- コストダウンを突き詰めることで安価な品を大量提供する
- 職人技術を省き、最低限の品質で出荷する
こうした方向性へ舵を切っていれば、より安い価格で「モノ」を流通させることは可能だったかもしれません。しかし、当社は「最後の一線」を踏み越えず、馬鹿正直な商売や三方よしの精神を堅持し、質を大きく落とすことなく踏みとどまりました。その結果、今もなお、品質にこだわり続けるブランドとして信頼を得ているのです。
製造業からサービス業へ:価格を決める新たな視点
これからの時代、屏風製造においても「モノを作って売る」だけでなく、「サービスとして価値を提供する」視点が求められています。
1. サービス形態による価格変動
例えば、以下のようなサービス形態があります。
- オーダーメイド相談対応:設置場所やデザイン希望をヒアリングし、最適な素材や仕上げを提案
- メンテナンスサポート:長期利用を前提とした張替えや修理の容易性、アフターケア窓口の設置
- ブランドストーリー発信:老舗の職人技や文化的背景を理解し、お客様と共有することで、単なる商品以上の価値を提供
こうしたサービスを充実させるほど、人件費や時間、知見の蓄積、情報発信コストなどが増加します。その分、価格は製品単体の原価計算以上のものとなり、「付加価値価格」として反映されるのです。
2. 人件費・外注費=コスト以上の意味
単純な原価計算では、「人件費」「外注費」「設備投資」がコストとして扱われます。しかし、そこには職人の長年蓄えた技術、研究開発で培われたノウハウ、新素材や加工法を生み出すための時間や試行錯誤が内包されています。
お客様の理想を形にし、それが空間に力を与え、人々に感動や安心をもたらす――そこには金銭には換算しづらい「価値」が確かに存在します。その価値が価格に反映されることで、最終的な「適正価格」は単なる原価積算を超えた、独自の価格領域を形成します。
「適正価格」はお客様と共創する価値
お客様の求める価値観
価格を決める最終的な判断基準は、お客様のニーズと期待値です。- 短期的な利用でコストを抑えたいのか
- 一生モノとして長く使いたいのか
- 伝統技術やブランドストーリーに感銘を受け、そこに投資する意味を感じるのか
これらの期待値に応えられるほど、その価格はお客様にとって「妥当」「納得」「適正」と映るでしょう。
コミュニケーションと透明性
適正価格をお客様に理解していただくためには、丁寧なコミュニケーションが欠かせません。素材や工程、技術レベル、サービス内容、アフターケアなどを説明し、なぜその価格になるのかを明示することで、お客様は安心して購入を検討できます。前回の記事(屏風の適正価格)でも触れましたが、細かな仕様や用途を踏まえた上で見積り・相談することで、個別ケースに最適な価格提案が可能になります。
結局、価格は何によって決まる?
端的にいえば、「価格=(原価+人件費+ノウハウ+ブランド価値)×お客様の求める価値観」と表現できるでしょう。ただし、これはあくまで概念的な式であり、実際にはもっと複雑です。
工業製品のように大量生産されるわけではない、1点ものや特注品が多い屏風は、「こんなシーンで、このくらいの期間、こういう雰囲気で使いたい」というストーリーによって、価格の意味合いが変わります。
- ホテルの式典会場なら、長期の耐久性や簡易メンテを重視 → 一定の品質と実用性に見合った価格
- 神社仏閣の長期使用なら、数十年~百年の価値を考慮 → 文化継承としての価値が価格に加わる
- 個人所有で愛着のある書を屏風化する場合 → 趣味的満足や芸術的価値が価格に反映
これからの屏風づくりはどうなる?
時代は常に変化しています。建築環境、空間デザイン、ホテルやレストランのコンセプト、そして顧客の価値観も移り変わります。今後はさらに、以下の要素が価格決定に影響を及ぼす可能性があります。
デジタル技術や新素材の活用:3Dプリントや特殊なフィルム印刷、ナノレベルのコーティング技術が進めば、これまで不可能だった仕上げが実現し、新たな価格帯が生まれるかもしれません。
サステナビリティへの配慮:環境に優しい素材や地球に負荷をかけない製法を取り入れることで、価格にエシカルな価値が付加される可能性があります。
レンタルやサブスクリプションモデル:販売ではなく、短期レンタルや定額利用サービスを展開することで、お客様にとって新たな価格の妥当性が生まれるかもしれません。
あなたの「適正価格」はいくら?
「適正価格」は一方的に決まるものではなく、お客様と製作者が対話し、理解し合うプロセスの中で見出せるものです。
当社は、用途・ニーズ・予算・デザイン方針などを伺いながら、最適なプランを形にするお手伝いをいたします。ぜひお気軽にお問い合わせいただき、理想の屏風に込められた価値を一緒にカタチにしましょう。
まとめ
今回の記事では、屏風の価格が原価計算だけでなく、サービス形態やブランド価値、職人の想い、お客様の価値観によって変化することに注目しました。
「適正価格」は、単なる経済的合理性を超え、関わる人々の想いとストーリーを織り込んだものです。前回の記事(屏風の適正価格)と併せて、お客様自身のニーズやこだわりを見極め、自分にとって本当の意味で適正な価格を判断する参考にしていただければ幸いです。
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